麻糸について。
私たちが目指したのは、ただの麻縄ではなく「強くて柔軟な」一本です。
これは縄職人であれば誰しも心に置くテーマですが、実際にその両立を形にするには、素材選びが最も重要になります。
緊縛用の縄で一般的に使われるのは麻糸です。
ただ「麻糸」と一言で言ってもその種類は驚くほど多く、綱引き用の太く荒いものから、アパレルや下着に使われる繊細な糸まで多岐にわたります。
原料となる植物も、亜熱帯で育つ麻科のものを中心に多種多様です。
文献を深く追いかけるとそれだけで一冊の本になってしまうので、ここでは要点だけをまとめますね。
古くから縄づくりに適すると言われてきたのが「ジュート糸」です。
しかしジュートにも幅があり、細くて綺麗なジュートは強度が足りず、反対に荒く硬いジュートは肌当たりが厳しいため、緊縛には向きません。
その中間、しなやかさと適度な強さを両立できる糸を探した結果、行き着いたのが「ヘシアンジュート糸」でした。
これはコーヒー豆の麻袋(ドンゴロス)や、絨毯の裏地にも使われる実用性の高い糸で、硬すぎず柔らかすぎず、まさに“ちょうど良い”性質を持っています。
麻糸は細い繊維を束ねて撚り上げながら作られます。
その工程で細かな毛羽がどうしても生じますが、さらに糸を撚って一本の縄に仕上げると、この毛羽が表面にふわりと残ります。
その見た目が繭のように見えることから「繭縄」という名前が生まれました。
仕上げの工程で、この毛羽は焼き締めることで取り除くことができます。いわゆる“鞣し”の作業です。
毛羽を落とした後の縄は使うほどに滑らかさが増し、手馴染みが良くなっていきます。
しっかりと強く撚っているため、細かな繊維が抜け落ちにくい点も、長く使える理由のひとつです。
糸のゴミ取り
私たちの縄づくりは、まず“糸そのものを整える”ところから始まります。
麻糸を作る工程では、どうしても異物が混ざります。硬く残った繊維のかけら、十分にほぐれなかった部分、逆に細かくなりすぎて綿状になったものなど、種類も大きさも様々です。
この小さな“ゴミ”を一つずつ指やピンセットで取り除いていきます。
細い麻糸は直径1ミリにも満たないため、引っ張れば簡単に切れそうになることがあります。そんな時は無理に力をかけず、必要のない部分だけをハサミで丁寧にカットします。
また、細長い繊維の硬い部分が撚り上げた後に顔を出すこともありますが、これは毛羽焼きの工程で綺麗に処理できます。
こうした地道で手間のかかる作業は、良い縄を作るためには欠かせません。
一本の縄の品質を左右する“基礎づくり”として、最も大切にしている工程のひとつです。
